そばにある、ひとてま
ノグチニットの「ひとてま」
——編み方と、その裏側にある手仕事の話
本日は、私たちがまいにち向き合っている「編み方」と、その裏側に隠された、ちょっぴり気が遠くなるような手仕事のお話です。
ニット業界には、3つの「編み方」がある
みなさんは「ニットの服や帽子が、どうやって作られているか」を想像したことはありますでしょうか。
実は、ひと口に編み物業界と言っても、その仕組みは大きく3つに分かれています。「たて編み」「丸編み」、そして私たちが営む「横編み」です。
一般的な生地屋さんで丸くロール状に巻かれて売っているような、薄手でよく伸びるカットソーの生地などは、主にたて編みや丸編みで作られています。これらは驚くほどのスピードで大量に、そして安価に生地を編み上げることができる素晴らしい技術です。こうして出来上がった大きな生地を、洋服の型紙に合わせて裁断しミシンで縫い合わせることで、世の中の多くの衣類は作られています。
ノグチニットが守り続ける「横編み」という仕事
一方で、ノグチニットが90年間一筋に続けてきた「横編み」は、それとは全く異なるアプローチをとっています。
私たちは、大きな生地をハサミで裁断することはしません。最初から、お届けしたい帽子やマフラーの形そのものに合わせて、機械の針を動かして編んでいきます。目の数をひとつずつ減らしたり、増やしたり。まるで人が手編みでセーターを編み進めるかのように、1点ずつ形を成型しながら、じっくりと時間をかけて編み上げていくのです。
ハサミを入れないため、糸のロスがほとんど出ないという美しさもあります。ただそのぶん、どうしても時間がかかります。最新の大量生産の機械と比べれば、効率的とは言えない不器用な方法かもしれません。
それでも横編みにこだわり続けるのは、空気を含んだような、ふわっとした手編みに近い極上の質感が、横編みでしか生み出せないからなのです。
糸が届いた瞬間から、「ひとてま」は始まっている
ノグチニットの「ひとてま」は、機械で編み始めるずっと前、毛糸が工場に届いた瞬間からすでに始まっています。
私たちは、届いた毛糸をそのまま編み機にセットすることはしません。まずはすべての糸を、自社の手で一度きれいに巻き直します。その際に、糸の表面に薄く「蝋(ろう)引き」を施します。昔は蝋引き専門の工場もありましたが、時代とともに廃業されてしまいました。
とても手間がかかるため今では行う工場がめっきり減ってしまった工程ですが、このひと手間によって糸が驚くほど滑らかになり、機械の中で引っかかりもなく、色による乱寸が少なく美しく編み上げることが可能になります。
1日に、たった20枚。
こうして準備を整えた糸を機械にかけ、ようやく編み始めるのですが、私たちのニット帽の中には機械がフル稼働しても1日にたった20枚ほどしか編み上げられないものもあります。
大量生産の時代に、1日に20枚。まるで職人がつきっきりで我が子を育てるような密度で、1枚ずつの輪郭が形作られていきます。
編み上がってからも、まだ続く「手仕事」
しかし、編み上がったからといって、すぐに製品になるわけではありません。ここからさらに、横編み屋としての本当の意地が光る工程が待っています。
ウールやカシミヤ、アンゴラといった繊細な羊毛や獣毛の製品は、編み上がった後にすべて、職人の手でお湯につけて洗濯し、丁寧に乾燥させる「風合いだし」という工程を挟みます。
実は、ニット帽の製造において、ここまで手間をかけるブランドはほとんどありません。なぜなら、お湯の温度や時間、乾燥のさせ方ひとつで、ニットの縮み具合や柔らかさが全く変わってしまうからです。
この工程を省いてしまえば、作り手としてはとても楽になります。けれど、それをしていないニットは、お客様がご自宅で初めてお手入れをした瞬間に、ぎゅっと縮んでしまったり、あの最初の手触りが失われてしまったりするのです。私たちが最初にお湯をくぐらせ、糸のポテンシャルを引き出しておくからこそ、お客様の元に届いたあとも、ずっと変わらない極上の柔らかさが続きます。
「軽くてすっきり」の秘密は、一体編みの技術にある
ノグチニットのニット帽に触れた方がよく「裏地がついているのに、驚くほどすっきりしていて軽いね」と言ってくださいます。
通常の帽子は、表地と裏地を別々に作って縫い合わせるため、どうしても縫い目がゴロゴロして重くなってしまいます。しかし私たちの技術は、表地と裏地を一繋がりの「1枚の絵」のように同時に編み上げることができるのです。
これにより、すっきりとした美しいシルエットと、肌にあたる部分によって編み分けた裏地による高い機能性を、最高のバランスで両立させることができました。
ただ愚直に、真面目に。
1927年から99年という月日の中で、横編み機の発展とともに研究し積み重ねてきた技術と情熱。そのすべてを込めたニットアイテムを、今日も大阪の小さな工場から、皆様の心地よい暮らしのそばへお届けしています。






















